『Believe in? -Summer Version-』 瑠希さん・作


日下 隆志(くさか たかし):剛くん
25歳の若手コラムニスト



榊 政紀(さかき まさのり):准くん

24歳の新人カメラマン






Believe in?−Summer Version−


7月上旬。
とある雑誌のコラムニストの、日下隆志率いる雑誌の取材班が、真夜中の心霊スポットに来ていた。
次号が、『真夏の心霊特集』という特集になっているからだ。


隆志:結構…ってか、かなり不気味だな…。
政紀:そうですね…。ライトを照らしてもよく見えないし。
隆志:こりゃ、いいモノが撮れるかもな。
政紀:………


到着してから、すでに一時間ぐらいは経っていた。今の時刻、深夜零時半。
政紀はさっきから、設置しているカメラの調整ばかりしていた。


隆志:おい、どうしたんだよ。
政紀:いや、何か電源切れちゃって。
隆志:はぁ!?充電切れたのか?
政紀:大丈夫です。すぐ入ると思いますから。


政紀の言ったとおり、電源はすぐに入った。
それから、試しに何回かシャッターを押した。まばゆい光が一瞬、辺りを照らす。


隆志:大丈夫みたいだな。
政紀:………
隆志:どうした?幽霊でも見た顔して。
政紀:…いえ。


深夜一時半。隆志は少し仮眠をとっていた。
しかし、辺りが急に暗くなったので、何事かと目を覚ました。


隆志:何も見えねぇ…。おい、榊。何が起こったんだ?
政紀:あ、日下さん。照明用のライトが消えたんです。
隆志:消したんじゃなくて?
政紀:はい。今照明さんが原因をつきとめています。
隆志:何が起こってるんだ?カメラの電源が切れたり、照明がいきなり消えたり…。


深夜二時過ぎ。ついに事件は起きた。
今まで消えていた照明が、次々についたり、消えたりと繰り返している。そして、生温い風が吹く。


隆志:何なんだよ…一体…


政紀は必死にシャッターを切る。が、4〜5枚切ると、シャッターが切れなくなった。
押しても、押してもシャッターが切れない。それどころか、フィルムが勝手に巻かれ始めた。


政紀:日下さん…カメラもやられました。
照明係:ライトももう点きません!
隆志:仕方ない…一旦引き上げるぞ!


隆志の一言で、すぐ片づけをし、その場を後にした。一行は走って、山を下りる。
…が、いくら走ってもバスを止めている広場が見えてこない。ただ、見えるのは大きな湖だけ。


政紀:あの…ここ、さっきも通りませんでした?
隆志:…くそっ!どうなってんだよ!!
スタッフ:うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!


突然、スタッフの一人が悲鳴をあげる。
隆志と政紀は何事かと、スタッフの指の差すほうへ目をやると、
湖の中から映画か何かで見たことあるように、何本もの手が出てきていた。


隆志:ま、マジかよ…。何だよ、アレ…
政紀:……日下さん。
隆志:何だ?
政紀:俺たち、ずっとつけられてたみたいですよ。
隆志:…誰に?
政紀:ものすごく人数が多いです。
隆志:だから、誰につけられてたんだよ!


隆志はふと、政紀の視線の方向をみる。が、そこには何もなかった。
いや、隆志には見えなかったのだ。


隆志:榊?


政紀は真っ青な顔をして、ガタガタと小刻みに震えている。


隆志:おい、榊!どうしたんだよ!!
政紀:こ、こっちに近づいてきてます!
隆志:だから何が近づいて…


隆志は声が出なかった。
さっきは何も見えなかったはずの場所に大勢の人がいる。
それも、ぼさぼさの黒の長髪で、白装束を着ている人もいる。頭から血を流している人も…。



隆志:………


隆志達は動けなかった。これが金縛りというのだろうか。
手も足も全く動かなかった。


その時、「うわぁぁぁぁ!助けてくれ!!」という声が響き渡った。


声のするほうに目をやると、さっきのスタッフが湖から出てきている「手」に脚をひっぱられていた。


政紀:……さんっ!


政紀はスタッフの名前を呼んだのだが、声も出なかった。唯一でたのは、「さん」だけ。
スタッフは引きずりこまれて、湖へと沈んでいった。


湖のほうを見ていて、気づかなかったが、さっきの人だかりはもう、すぐ目の前まで来ていた。
大勢の人だかりは、隆志達を囲むようにして、近づいてくる。


バックは湖で逃げ場はない。ようやく体が自由になってきた。


隆志:自由になっても、これじゃ意味ねぇよ。
政紀:そうっスね…。


隆志達は徐々に後ろに下がる。でも、これ以上下がれないと思ったとき、隆志も「手」に脚をつかまれた。


隆志:うわぁぁ!離せ!
政紀:日下さんっ!!!!


政紀が隆志の上半身を掴む。が、さっきの人だかりに、体を引っ張られる。


隆志:榊ーっ!


隆志は必死に抵抗するが、とうとう湖に沈んでいった。


隆志:もう…これで俺も死ぬのか?


隆志はそっと目を閉じた。






?:隆志ー、いつまで寝てるの!早く起きなさい!!


ガバッと隆志は跳ね起きる。
肩で息をしながら、辺りを見回すと、見慣れた風景が目に入る。


?:隆志?起きた?
隆志:オフクロ…あれ?俺…死んでない?
母:何訳わかんないこと言ってんのよ。早く着替えて出てきなさい。もうお昼よ。


何だったんだ?あれは夢だったのか…?夢にしてはリアルすぎるだろ…?
ま、でもとにかく、俺は生きてる。


死んでない。


マジで苦しかった。もう終わりだって思った。


オフクロが起こしてくれなかったら、やばかっただろうな。


隆志は着替えて部屋を出た。
リビングには、テレビを見ている父親の姿があった。


今日は日曜日。隆志も仕事は休みだった。


隆志:いただきまーす。


隆志はもくもくと朝ご飯兼昼ご飯を食べていた。
と、後ろのリビングからはテレビの声が聞こえる。


アナウンサー:では、次のニュースです。今朝早く、○×山の湖で、男性の遺体が発見されました。
         死因はおそらく溺死。男性の体には無数の手のような跡があり…






あなたは、幽霊を信じますか?
いないと思っていても、案外すぐそばにいるかもしれませんよ?
ほら、あなたのすぐ後ろにも…






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